STARLITE CREATORS Vol.18 トイレを我慢しない避難生活へ。クイックハウス開発の裏側

災害時のトイレ問題は、汚れや使いにくさからトイレを我慢し、水分を控えることで、脱水や便秘、エコノミークラス症候群などを招き、災害関連死につながることもあります。スターライト工業は、阪神・淡路大震災をきっかけに、下水道を利用できる災害用備蓄トイレ「クイックハウス」の開発と普及に取り組んできました。今回、車いすの方にも使いやすいモデルを開発すると聞き、私は「車いすで入るなら、空間を広くしたのかな?」くらいに考えていたのですが、そんな簡単な話ではないようです。開発者のNさんに話を聞きました。
本編の前に、クイックハウスとは?
阪神・淡路大震災で起きた深刻なトイレ問題をきっかけに、神戸市とともに開発を進めてきた災害用トイレボックス。自治体や企業が長期間備蓄しやすいコンパクト設計。工具要らずで簡単に組み立てができ、大人2人により5分で設置が可能。また、防臭や衛生面で優れるマンホールトイレへの設営に適している。神戸市をはじめ、横浜市、広島市、新潟市、東松島市など、全国の自治体で導入されている。

今回、新しいモデルを開発した背景を教えてください。

N: 災害用トイレに対する要望として、最も多くあげられたのが「高齢者、障がい者の使用を容易にしたい」だったからです※。被災者のお話を聞いても、同じ要望でした。これまでのクイックハウスは、「備蓄しやすく、必要なときにすぐ使える」が基本コンセプトであり、そこは今も変わりません。これからは、備蓄や設置のしやすさはもちろん、“あらゆる人が使いやすく”まで考える必要があると思っています。
“あらゆる人にとって使いやすい”を目指す中で、まずは車いすを使う方を対象にしたのですね。具体的には、どんなところに配慮して開発しましたか。

N: 最初は「車いすが入れる広さがあれば使えるだろう」と思っていましたが、実際には車いすに座ったまま扉を閉められるのか、便器の方向に転回できるのか、どの方向から便器へ移るのか、そのとき、どこに手をついて体を支えるのかなど、一連の動作を考える必要がありました。人によって麻痺の状態や移乗の方法が異なるので、ある人には便利な手すりが、別の人には動作の邪魔になることもあります。試作品をつくり、実際に車いすの方に使ってもらうことで、自分たちの想定の甘さを痛感しました。
その“使いやすさ”を形にする中で、特に譲れなかったのがスライドドアだった。

N: 何パターンも試作しましたが、スライドドアの機構と備蓄時に折り畳める構造を両立させるのが難しくて。先輩のGさんからは「折り戸にしよう」と言われたこともあります。でも、折り戸にすると使用時に室内側へ張り出すため入口の間口が狭くなります。「使いやすさには妥協したくない、スライドドアは絶対に譲れない」と私は大反対。いま思えば大ベテランのGさん相手によく言ったなと思います(笑)。「頑固やな」と言いながらもGさんは私の考えを根気よく聞いて設計に落とし込んでくれ、試行錯誤の末、折り畳めるスライドドアができました。

スライドドアにブラシがついているのですが、なんのためですか?

N: 扉を動かすたびに、レールに入り込んだ砂をかき出せるようにつけました。スライドドアにはレールが必要で、その構造上、どうしても溝ができます。クイックハウスはグラウンドなど屋外に設置することが多いので、そこに砂ぼこりがたまると、ローラーが動きにくくなって扉が開けにくくなる可能性があるんです。そこでGさんがドアのローラー部分にブラシを付けました。周囲からは「そこまでしなくても」と言われましたが、使用環境まで考えると必要なことでした。
大きさや機能だけでなく、見た目の印象も大きく変わりましたね。

N: クイックハウスの壁の色を、これまでの青から白に変えました。機能だけを考えれば何色でもいいのですが、避難している方は、普段とは違う環境で過ごしているので、トイレが「いかにも災害用」という雰囲気だと、気持ちが沈んでしまうと思ったのです。また、被災された車いすユーザーの話を聞くと、トイレそのものが使いにくいだけでなく、「トイレまで行くこと」が大きな負担になる場合があるそうです。そこで、クイックハウスを屋内に設置し、使い捨ての携帯トイレと組み合わせて使うことも想定しました。これなら、足の不自由な方が屋外まで移動しなくて済みます。そんな理由から、圧迫感が少なく、清潔感があり、屋内にもなじみやすい白色を選びました。

災害時以外にも、イベントなどで使えそうですね。

N: 例えば、地域のイベントや運動会、花火大会など、平時にも気軽に使ってみてもらい、クイックハウスに慣れてほしいです。せっかく備蓄していても、災害が起きるまで一度も使わなければ、いざというときに組み立て方や運用方法が分からず、戸惑うかもしれないからです。平時から使ってみると、設置する側には運用の経験がたまります。また、利用する側にとっても「あのトイレ、見たことがある」「使ったことがある」という身近な存在になりますし、被災したときにも見慣れたものの方が、安心できると思うんです。
今回、実際に車いすを使っている方に試してもらって、“使いやすさ”はみんな違うんだと改めて感じました。だから、これで完成ということではなくて、実際に使う方の声をもっと聞くことで、もっと良くしていけると思っています。災害が起きたときに、誰もが「トイレに行くのを我慢しよう」と思わず、安心して使える場所になること。クイックハウスを、そんな存在にしていきたいです。
インタビューまとめ
取材をきっかけに、家に備蓄している使い捨ての携帯トイレを実際に使ってみました。説明書を読み、手順をひとつずつ確かめながら、ふと「非常時に、こんなに落ち着いて説明書を読めるかな?」と思ったんです。Nさんが話していた「平時から使って慣れておくこと」の大切さを、一気に実感しました。いざというときに迷わず使えるようにしておけば、少なくとも「上手くできなかったらどうしよう」という焦りや不安は減らせるはず。備えるって、買って置いておくだけじゃないんだな、と。私の中の“備え”の基準がひとつ増えました。

災害時の「困った」を、少しでも減らすために。
トイレの使いやすさは、人や場所、状況によって異なります。私たちは、実際に使う人や現場の声に耳を傾けながら、災害時にも安心して使えるトイレのあり方を考えています。クイックハウスの導入や使い方はもちろん、「こんな場所でも使える?」「こんな配慮はできる?」といったご相談も歓迎しています。お気軽にお問い合わせください。
