STARLITE CREATORS Vol.12クルマづくり特集 Vol.2自動車事故での被害を最小にする設計とは?矛盾する機能でもカタチにする開発設計のCREATORS
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毎日の生活に欠かせない移動手段である自動車は、年間8千万台以上も世界で生産され、その1台の自動車は3万個もの部品で構成されていると言うので驚きです。その部品の中でボディに次ぐ大物製品・ユニットをスターライトは開発・製造しています。見た目はもちろん、安全性能も考え、製品の開発設計をしているCREATORSにお話をお伺いしましょう!モビリティ連載シリーズ第2弾です!
第1弾はコチラ
Y.T2002年より自動車向け製品の開発設計に従事。現在は、開発設計のまとめ役。
S.TY.Tさんと同じく、2002年より自動車向け製品の開発設計に従事。数々の矛盾するリクエストに確実に応えてきたCREATOR
スターライトが開発・製造している自動車向け製品を教えてください
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Y.T:自動車の表面側の製品群は「エクステリアパーツ(外装品)」と呼ばれます。前面のグリル、バックドアのつかむところ、ルーフレール、タイヤ周りの泥よけ、底面のカバー、補強パーツなどをスターライトでは担当してきました。
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S.T:エクステリアパーツ(外装品)は、不要物が自動車の中に侵入するのを防ぐことや、自動車のデザインを魅力的にすることが基本性能となります。スターライトには「より安全な自動車を短期間で開発する」が求められています。
より安全な自動車をより短期間で!具体的にどのようなことでしょうか?
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S.T:スターライトが開発・設計している代表的なユニット「カウルグリル」で説明しますね。カウルグリルは、ボンネットとフロントガラスの間をつなぐカバーのことなんですが、とても地味な製品で、自動車の初期デザイン画ではいつも黒く塗りつぶされてるほどです。
「スターライトに一任されている!」と言えば嬉しい限りですが、実は非常に多岐にわたるさまざまな要求性能があるんです。
どんな要求性能があるんですか?気になります!
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Y.T:まずは「風よけ」の意味である「カウル」として、雨風から自動車をしっかり覆うこと、そして空気を取り込む「グリル(網)」としての機能が必要になってきます。
具体的には、室内にエアコン送風用の空気を網目から取り入れます。あとはフロントガラスから伝う雨水をシールします。シールしないとエンジンルームが水浸しになってしまいますからね。逆にエンジンなどが発生させる熱気や臭気を外へ逃がす必要もあります。
水の浸透を止めて、熱い臭気は外に逃がす…。そんな矛盾する性能を実現させる「開発設計」とはどのようなお仕事でしょうか?
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Y.T:カーメーカーが描く理想的なデザインを一緒に具体化していく提案・設計をしています。もちろんデザイン面だけでなく、機能面も提案・設計していく必要があります。
カウルグリルの場合なら、周辺の部品を担当する他のサプライヤーとの調整も開発設計の役割ですね。自動車への取り付けの際、周辺部品は硬いガラスや金属が多いので、しなやかな樹脂でできているカウルグリルでうまく調整することが多くあります。形状を合わせたり、締結部分を動かしたり。そんな調整ですね。
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S.T:カウルグリルの下にある金属製のクロスメンバーなど、周辺を取り巻く部品というのは車種ごとに変わってきます。同じというのがほぼないので、毎回その調整をカーメーカーや他のサプライヤーとしていきます。「エンジンルームに雨水を入れない」という基本性能も、各車種のデザインに合わせ進化させています。
水切りリブの開発設計
素人質問で恐縮ですが、エンジンルームに雨水が入ると、なぜいけないのですか?
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Y.T:フロントガラスの汚れを取るために「ウインドウォッシャー液」を吹き付けますが、その液に含まれる揮発性の成分が窓ガラスを伝ってエンジンルームに入ってしまうと、出火の原因になりかねないんです。
「水切りリブ」ってそんなに重要な役割を持っているんですか!どうやって水を切っているんですか?
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S.T:カウルグリルにはエアコン用の空気を取り込むための網目が開いているんです。フロントガラスから伝った雨水がこの網目に入るとエンジンルームに落ちてしまうので、途中で外へ流すための仕組みが必要なんですよ。外に流すために、カウルグリルの下面に設計したのが「水切りリブ」ですね。特許も出しました。
私が担当した車種では、カウルグリルを2ピースに分割させ、中央部で組み合わせることが必要になりました。その合わせ部分から水が漏れやすいので、ここに水切りリブを集中して設定しました。迷路構造にして水の流れを予測し、雨水を落としたいポイントに導きます。水の気持ちになってイメージして絵を描いたりしてから、図面データに反映していくみたいなことをよくやっていましたね。
迷路構造の解説エンジンを守り、迷路構造で水を落としたいポイントに導く
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Y.T:水切りリブは雨水を狙ったポイントに誘導するために、リブの形状を変えたり、位置を変えたり、大きさを変えたり、さまざまな工夫をします。難しいのは、自動車が坂を上ったり左右に揺れたりする状態でも、水をちゃんと誘導する水切りリブを設計しなければいけないというところ。ここが非常に難しいです。
自動車がどんな状態でも水が切れないといけないなんて、考えれば当たり前ですけどそれをカタチにするのは至難の業ですよね…!
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S.T:昔はなかったんですけど、最近はゲリラ豪雨を考慮した設計もしています。1時間100ミリの雨とか…。
集中豪雨でカウルグリルへの水量が増えると、どんな問題が起こるんでしょうか?
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S.T:まず水の侵入が途絶えないので水が切れにくくなります。水量が多いので、落ちるときの飛び跳ねを受け止める必要もあるんですね。カウルグリルの下には、エアコンに空気を回すブロワーがあるんですけど、跳ねた水がブロワーに吸い込まれやすくなります。水は一滴も入ってはいけないのでかなりシビアな設計をする必要がありますね。
歩行者の命を守る開発設計
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Y.T:ほかにも、カウルグリルの複雑な機能として「ある条件では壊れてエネルギーを吸収する」というのがあります。
外装部品が壊れてしまうと、かなりマズそうですが…。大丈夫ですか?
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Y.T:もちろん、普通に運転しているときはガッチリ壊れないようにしていなければなりませんが、万が一、自動車の前面で歩行者との接触事故が起こってしまうと、カウルグリルの辺りに歩行者の頭部が当たる可能性があるんですね。このときカウルグリルは理想的に破壊されて、衝撃エネルギーを吸収するよう設計しています。
カウルグリルの衝撃シミュレーション歩行者頭部が当たり、最大荷重を受けたのち「歩行者を守るため」衝撃を吸収しながら、段階的に潰れていく
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S.T:先ほどもお話ししましたが、カウルグリルの周りは硬い部品ばかり。フロントガラスと金属製のクロスメンバーに接しているのですが、それぞれが単純な形状ではないのでカウルグリルを理想的に破壊させるのはとても難しいです。
カウルグリルは通常の運転ではへこんだりせず、十分な強度を持っているので簡単につぶれません。また、基本的に歩行者の頭部がどこに当たっても、同じところから壊れる必要があります。そんなこと考えたこともないのでとても難しかったですね。
衝撃があったときだけ壊れるなんて、魔法を使うレベルで難しそうですが、どうやって実現させたのですか?
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S.T:カウルグリルの中央から確実にクシャっとつぶれるように、折り曲がりやすい仕組みをつくりました。ノッチと呼ばれる「切り込み」をつくり、そこで折り曲がるような設計をしたんです。
ノッチの位置はもちろん、深さ、角度などいろいろ検証しました。角度が1度違うだけで割れ方が全然違ってきます。ちょうどいいノッチ形状が見つかっても、それを量産する射出成形の金型でつくれるかという問題もあります。
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Y.T:このような机上検証を経て、実車にカウルグリルを取り付けた状態での評価に入ります。頭部が自動車のボンネットにあたるシミュレーションをして、カウルグリル単体ではなく車両としてどうなるかを確認します。歩行者保護の頭部保障値をクリアできるように何度もすり合わせて、最終的なカウルグリルの設計を決めます。
あってはならない交通事故ですが、被害者のダメージを最小限にすることにも、貢献しているのですね!人が衝突したときに、クッションのように受け止めてくれる機能があるといいなあと、ふと思いました。
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S.T:確かにグッドアイデアですね!
これからの開発設計とは?
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Y.T:もっと短期間で開発していきたいと考えています。例えば「水切りリブ」の設計では机上検証後に、実際にシャワーテストで評価する必要があります。これをあるレベルで机上検証、つまりシミュレーションしたいのですが、0.3秒の雨水の動きを解析するのに5時間もかかってしまいます。そこで、キーになる部分を集中的に解析するとか、いろいろ工夫する取り組みを始めたところです。
たった0.3秒の解析にそんなに時間がかかるとは!シミュレーションを駆使して、開発スピードを上げられたらすごく画期的ですね!
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Y.T:このようなシミュレーションのデジタル技術と言えば、モデルベース開発です。まだ製品レベルでのモデルベース開発ですが、周辺の部品や車体性能への効果をつなげたシミュレーションが進んでいくはずです。
朝、打合せをして決めた水切りリブ形状の車両評価が昼にわかれば、工数も開発にかかる時間も大きく削減できますよね。もちろん解析と現物とのギャップをどう埋めていくかというのも大切ですが、機能のキーとなるボウリングの「一番ピン」を見つけ、そこに集中して検討する活動が大切かと思います。
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S.T:開発スピードを早めることでコストも削減できます。次世代の自動車をスピード感もって、次々つくっていきたいですね!
インタビューまとめ
今回は一番設計が難しいと言われるカウルグリルを軸に、開発設計のお話をお伺いしました。見た目だけでは想像できない重要な機能をもち、かつ矛盾するような機能を両立させないといけない、そんな複雑な製品でしたが、それを着実に実現させてきたCREATORSでした。S.Tさんはアメリカの関連会社に出向されますが、開発、設計、品質、製造などトータル的に考えたモビリティの最適提案をしていきたいとお話しされていました。日本に帰ってこられるときが楽しみですね!
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お客さまとのパートナーシップで新しい共創を。
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スターライトはカウルグリルをはじめとする自動車の高機能化に貢献する商品を、開発・製造しています。お気軽にご相談ください。